熊本地震:被災した子どもへのサポート

子どもへの配慮について 2016.4.15

一日の生活イメージ

 昨夜から今朝のかけて東北の方から子どもへの対応についての相談を数件いただきました。
 今朝の情報番組はほとんどが熊本の地震に関することでした。震災直後のため正しい情報を伝えていくことはとても大切なことです。しかし、ニュース、特に朝のニュースは同様の内容が繰り返し放送されるため、テレビをつけている以上はその情報が何度も何度も入ってきます。
 東日本大震災直後も、震災・津波の映像が繰り返し流れました。停電していた地域もあり、私の住む地域では直後に映像としてみることはありませんでしたが、関東や西日本の方々が直後の生々しい映像を目の当たりにして震災を疑似体験し、あたかも自身がが震災を体験しているような感覚を抱いたり、強い恐怖感や不安感を抱いたりすることがありました。
 今回の震災でも朝のニュースを見て心が大きく揺れ動き、不安な気持ちを抱いている方もたくさんいるのではないでしょうか。これは大人だけではなく、子どもも同様です。幼ければ幼いほど子どもは、大人のように震災が地域や生活、人々にどの程度の影響を及ぼすものなのか、どんな被害をもたらすものなのかを正しく理解することは難しく、地震という得体の知れないものが「いつも強いパパを恐がらせている」「大好きなママを不安にさせている」という認識であることも少なくありません。いずれにしてもこれらは子どもとってとても大きな出来事・体験です。
 子どもは想像力が豊かで、こころの中でいろいろな物語を作ります。これは子どもらしさでもあり、成長する過程で大切なことではありますが、情報を正しく認識できずに豊かな想像力で物語が作られると、想像が次々に広がり、強い恐怖感や不安感を伴うことがあります。
 多くの子どもたちが朝のニュースを見て様々なことを思い、考えたと思います。なかには、こころの揺れ動きもなく、少なく、特別な影響のない子どももいると思いますし、冷静に見ている子どももいると思います。今回の震災のニュースが自身の体験を思い出すきっかけとなり、こころの整理ができる子どももいるかもしれません。
 現時点で、ニュースなどで過去の震災体験が生々しく想起されたり、強い不安感や恐怖感を抱いている場合には、一時的に情報を遮断する必要がありますが、それ以外には、特に情報を遮断する必要はありません。無理をして見る必要もないですし、必ず見せなければならないものでもありません。子どもがニュースを見たがったり、情報を得たいと思っているときは、その通りにしていただいていいと思いますが、できる限り、子どもだけでニュースを見続けることがないようにしていただきたいと思います。できれば一緒に見ていただきたい。今朝もそうでしたが、朝の時間帯は保護者の方も忙しく、一緒に見ることが難しいこともあります。そんなときには時々声をかけるだけでも、気にかけるだけでも構いません。もしかしたらこの記事をご覧になって「今朝、一人で見せ続けてしまった…」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これからでも十分大丈夫です。
 今日は金曜日。明日からお休みです。おそらく今晩も、明日の朝の情報番組も震災のニュースが繰り返し、繰り返し放送されると思います。子どもたちがテレビを見て、震災の情報を得る機会も増えることでしょう。
 子どもたちへの配慮をお願いいたします。
 今回の震災で亡くなられた方々のご冥福をこころからお祈りし、また避難できてない方のご無事と、被災された方々が少しでも平穏な日常生活が送れることをこころから願います。
※2016.4.15 Facebook投稿記事より
※無断引用・掲載等は不可とさせていただいておりますので、引用・参考・掲載される際にはご一報いただけれと思います。


地震ごっこについて 2016.4.17 

体験学習イメージ

 熊本・大分では今夜も余震が続き、不安な夜を過ごされている方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。頻発する余震によって恐怖感、緊張感、不安感が続き、からだやこころを休めることが難しい状況にあると思います。体力や気力が消耗するこの時期は、頭痛、めまい、食欲不振、不眠(寝付けない、眠りが浅い、何度も起きるなど)、動悸、混乱、あせり、記憶のあいまいさ、判断力の低下、イライラ、怒り、自責の念などの心身の不調が現れてくることがありますが、これらの不調は災害直後に誰にでも起こりうる、自然なからだとこころの反応です。
 子どもの場合には、これらの不調のほかに、急に甘えだしたり、わがままになったり、オムツが取れた子どもがオムツを履きたがったり、母親の身体に触れたがったり、スキンシップを求めるなどの赤ちゃん返りや、音や周囲の動きに過敏になったり、口数が多くなったり、騒がしくなったり、落ち着かなくなったり。逆に、何も語らなくなったり、何事もなかったかのように平然としていたり、言動がまとまらなくなることもあります。また、【地震ごっこ】や【救出ごっこ】を始めたり、震災の人的被害や亡くなられた方の死因について執拗に質問してきたり、目の当たりした凄惨な状況を自慢げに話しだすこともあります。これらも自然な反応です。
 しかし、震災直後で、誰もが心身ともに疲労している状態で、子どもこのような言動を平穏な気持ちで見守ることは難しいかもしれません。このため、不謹慎で不適切な言動であると叱ったり、止めたり、やめさせたり、禁止したりすることがあります。
 これらの言動やごっこ遊びは、地震や災害を子どもなりに理解するための手段の一つです。昨日の投稿でも書かせていただきましたが、幼ければ幼いほど大人のように震災が地域や生活、人々にどの程度の影響を及ぼすものなのか、どのような被害をもたらすものなのかを正しく理解することはできません。
 子どもは、添付した図(揺れる地面・建物、逃げている親子と男女)にあるように、揺れる地面や建物が怖くて不安げな表情をしているのではなく、黄色の輪で示した母親や大人たちの恐怖や焦りに満ちた表情がとても怖いのです。「親や大人たちをあんな表情にさせるなんだかわからない怖いもの」という認識で、あまり適切な表現ではないかもしれませんが、子どもにとっては『お化け』と同じようなものではないかと思います。ですから、子どもは地震を理解するために、受け入れるために、可視化して、揺らすことも止めることも自分でコントロールできる安全な環境を作って試しているのだと思います。
 子どもにとっての【地震ごっこ】は、我々大人が震災マニュアルなどを読んで理解していくことと同じではないかと思います。そうすることで、出来事を理解し、対処がわかり、周囲を理解し、自分自身も理解する。。。恐怖や焦りに満ちた大人たちの表情の理由も少しずつ理解していくのだと思います。
 しかし、所構わずこのようなごっこ遊びをさせていいのか?ということになりますが、このようなごっこ遊びをしたくない子どももいます。このようなごっこ遊びを目にすることで恐怖感や不安感が増強する大人もいます。ですから、子どもが安心して地震ごっこができ、周囲の大人も安心してさせられる環境の設定は必要だと思います。
 最後に、我々が見る震災マニュアルなどは、見るも見ないもご本人の自由でしすし、主導権は見る側にあります。ですから【地震ごっこ】も原則的には子どもに主導権があります。しかし、【地震ごっこ】は、必ずさせなければならないものでもありませんし、周囲の環境が厳しい状況であればその状況に合わせてください。
 自分より他者、家族、子どもを優先させる思いも強くなりますが、他者と同じように時には自身にも穏やかな目を向けて大切にしていただきたいと思います。
※2016.4.17 Facebook投稿記事より
※無断引用・掲載等は不可とさせていただいておりますので、引用・参考・掲載される際にはご一報いただけれと思います。


はじまりの喪失 2016.4.28

英語学習イメージ

 喪失体験とは、かけがえのない大切な人やものを失う体験です。
 親や子ども、きょうだい、祖父母、親戚、友人との死別、可愛がっていたペットとの別れ(Pet Loss)、そのほか、卒業、転校、引越し、失恋、転職、失業などのライフイベントも喪失体験です。私たちは、日々様々な喪失体験を繰り返しています。
 喪失を体験したとき、私たちは様々な感情が湧き起り、様々な反応が起こります、大切な人との別れであれば、悲しくなりことも、辛くなりこともあります。自分を責めたり、後悔したり、眠れなくなることも、食欲がなくなることもあります。人との接触を避けたり、イライラして感情を他者にぶつけたりすることもあるかもしれません。喪失体験によるこれらの感情や反応をグリーフと呼んでいます。このため、グリーフは病気でもなければ、障害や異常でもなく、自然な感情で、正常な反応です。
 4月。多くの子どもたちは進級・進学を迎え、環境が大きく変化しました。これまでのクラスが解散し、学年が変わり、クラスメイトや担任と別れ、クラス内での自己の存在や人間関係も変化しました。進学した子どもであれば、環境の変化はさらに大きいものかもしれません。
 進級や進学もまた大きなストレスを伴う喪失体験です。
 私の息子も今月から幼稚園に通い始めました。初日は笑顔で登園したものの、2日目から先週までは母親から離れられず、毎日泣きながらバスに乗り、最近になってようやく泣かずに登園できるようになりました。娘も進級し、新たなクラスでの学校生活がスタートしました。「前の学年が良かった」「明日学校に行きたくない」とお風呂や布団のなかで毎晩話をしていますが、朝は笑顔で登校しています。
 4月を迎え、子どもたちは、様々な思いや感情を抱きながら、環境の変化を受け入れ、その環境に慣れようと、適応しようと、それぞれがその子なりの方法で対処しています。喪失という視点から考えると、死別を体験した方が大切な人の死を受け入れながら、その環境に適応していく、心に折り合いをつけながらその人の生活を営んでいくプロセスと同じです。   
 4月14日。熊本地震は、進級・進学して間もない時期に発生しました。進級・進学という喪失を体験し、様々な思いや感情が巡っている時期の災害でした。地震による人的被害、家や学校の倒壊、住み慣れた町の被害、コミュニティの崩壊、不自由な生活を余儀なくされ、安心した生活を営めず、学校や職場に行けなくなるなどの喪失を体験しました。さらには、進級・進学し、期待に胸を膨らませていた子ども、新たな環境に慣れ始め、楽しみを感じはじめてのいた子ども、緊張感や不安感に押し潰れそうな思いで登校していた子ども、新たな決意を抱いていた子ども、行きたくないと思いながら登校していた子ども、様々な理由で登校していなかった子どもなど、子どもたちが抱いていた様々な思いや感情も、突然の災害によって失われました。
 被災・喪失体験をした子どもは、喪失体験をした大人と同じようなグリーフ(感情や反応)のほか、子どもに特徴的なグリーフも現れます。赤ちゃん返りや先日投稿した地震ごっこや救急ごっこも特徴的な感情や反応ですし、「ボクが悪い子だから地震が起きた」「前の日に喧嘩したからパパが死んだ」と感じている子どももいます。安心を維持するための信仰や行為、安全だと信じていた場所、それらを教えてくれた親や先生へ疑念や不信感をいだくこともあります。
 おそらくゴールデンウィーク明けから再開する学校も多いのではないかと思います。再開することや友達と会えることを喜んでいる子ども、被災体験によって勉強へのモチベーションが高まっている子ども、地震への恐怖感や不安感を抱き続けている子ども、被災体験を語りたがっている子ども、再開に対して否定的な感情を抱いている子どもなど、これまで体験してことのない様々な体験をした子どもたちが様々な思いや感情を胸に学校生活を再開します。
 元気いっぱいな子どもややんちゃな子どもが、再開後に元気がなかったり、おとなしくなったり。勉強熱心だった子どもが授業に集中できなかったり。笑顔がトレードマークの子どもが、暗い表情をしていたり。積極的・活動的だった子どもが消極的になったり。言葉ではうまく説明することができない違和感や不快感を抱いていたり。自信がなく、自尊心が低い子どもが、震災後の様々な活動への参加によって自信や自尊心が高まっていたり。不登校の子どもが災害による休校で安堵感に似た感情を抱いていたかもしれませんし、再開が新たなストレスと生んでいるかもしれません。これらの変化が逆に現れることもあるかもしれません。プラスの変化・マイナスの変化、様々な変化が現れますが、いずれの変化もグリーフで、自然な感情であり、正常な反応です。
 被災・喪失体験をした子どもに携わる方々には、子どもが繰り返し体験した喪失や心理的特徴、変化をご理解いただき、このような思いや感情を抱くこと、変化することは決して特別なことではなく、誰もが体験する自然な感情で、正常な反応・変化であることを、是非子どもたちに伝えていただきたいと思っています。そして、子どもが自身のこころに触れ、安心して表現できる安全な環境を作っていただきたいと思います。
 東日本大震災で被災した子どもたちとかかわる中で強く感じたことは、子どもは弱者ではなく、安心・安全な環境さえ整えれば、適応する力、折り合いをつける力、回復する力、生きる力があること。そして、その力を信じ続けることがとても大切であることです。
 子どもが誰からも邪魔されることなく、非難・否定されることなく、自身のこころに触れ、思いや感情、変化に気づき、丁寧に扱っていくことの積み重ねが、状況を受けいれ、適応する力となり、新たな力、可能性を生み出すきっかけになるのではないかと思います。
 最後に、災害により子どもたちの学校生活は突然中断し、再開の時期もなかなか決まらず、おわりやはじまりを自覚することが難しいあいまいな日々が続きました。自然災害は予測が難しく、喪失の心構えができないままに体験することがほとんどです。事前に知っていたから、告知されていたから喪失の悲しみや辛さといったグリーフが和らいだり、小さくなったりするわけでもありませんが、喪失を迎えるなんらかの準備をこころの中ですることはできるのではないかと思います。おわりを自覚し、はじまりを自覚することは、喪失体験を受け入れ、適応に向かうプロセスの中ではとても大切なことです。学校を再開する際には、はじまることを子どもたちにしっかりと伝えていただきたいと思います。そして、1学期や前期のおわり、3月の終業式や卒業式にはおわることを、2学期や後期のはじまり、4月の始業式や入学式のときにもしっかりとはじまることも伝えていただきたいと思います。
長文になりましたが、最後まで御読みいただきありがとうございます。
このたびの災害で亡くなられた方々のご冥福をこころからお祈りし、また避難されている方や被災された方々が少しでも平穏な日常生活が送れることをこころから願います。
※2016.4.28 Facebook投稿記事より
※無断引用・掲載等は不可とさせていただいておりますので、引用・参考・掲載される際にはご一報いただけれと思います。